無鉤条虫症| Taenia saginata infection (Taeniasis)

感染経路と予防

無鈎条虫症は Taenia saginata(無鉤条虫)を原因とする疾患である。十分に加熱されていない牛肉を摂取した場合、T. saginataに感染することがあるが、T. saginata による無鈎条虫症はヒトの健康に大きな影響を与えることはないとされている。

日本では1990~2009年までは無鉤条虫症の海外感染例が圧倒的であるのに対し、2010年以降は、関東地方で無鉤条虫に類似したアジア条虫症の国内感染例が相次いだことで国内の条虫症の傾向が変わりつつあると報告されている。

予防には肉をしっかり加熱するのはもちろんであるが、食事や調理前、トイレの後、動物に触れた後に、水と石鹸で手洗いをするという当たり前のことが重要である。

病態

条虫症は不十分に調理された牛肉にいる条虫の幼虫嚢胞の経口摂取により感染する。幼虫はヒトの腸内で成虫になり、通常5m以下のサイズまで成長する。

T. saginataによる無鈎条虫症は、一般的には無症状か軽症状ですむことが多く、時には腹痛、嘔気、下痢、食思不振、体重減少といった症状が起こることがある。最も特徴的な症状は「おしりから虫のようなものが出た」というもので、排便時に虫体が排泄されるものである。

これらの症状は、嚢虫を含む肉を摂取してから約 8 週間後に腸内でT. saginataが成虫に成長した際にでてくるとされている。

診断・治療

排出された虫体の形態や虫卵を顕微鏡で確認することにより診断する。類縁のアジア条虫とは形態のみでは鑑別できないため、遺伝子検査での鑑別が必要である。

感染後の最初の3ヶ月間は成虫に成長する前のため診断が困難とされている。治療にはプラジカンテルという駆虫薬を使用する。

出典

国立感染症研究所.“わが国における条虫症の発生状況”
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2406-iasr/related-articles/related-articles-446/7213-446r04.html
WHO.“Taeniasis/cysticercosis”
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/taeniasis-cysticercosis
CDC. “Taeniasis”
https://www.cdc.gov/dpdx/taeniasis/index.html

このサイトの執筆者一覧

植田 秀樹,大川 直紀,大塚 喜人,窪田 佳史,倉澤 勘太,津山 頌章,中尾 仁彦,藤井 元輝,松田 直也

牛
この感染症の由来は?

- Cow

牛は、腸管出血性大腸菌感染症や無鉤条虫症など、人間や他の動物に影響を及ぼす可能性のある多くの感染症のリザーバー(感染源)となります。

例えば、腸管出血性大腸菌感染症は、特定の大腸菌の変種により引き起こされ、感染した牛の生肉や生乳から人間に感染します。

また、無鉤条虫症は、調理が不十分な牛肉を食べることで人間に感染する感染症です。